電車の中

ずっと以前、外を出歩く時には大概いつも、ヘッドフォンで音楽を聴いていた。

地下鉄なんかに乗ると低音がかなり聴きづらいのだが、意地でも(笑)、音楽を聞き続けていた。

 

それが、PCで音楽を作りだした頃から、特にカラオケの仕事が殺人的に忙しくなった頃くらいから、外でヘッドフォンをほとんど使わなくなった。

カラオケ・データを作る時は、イヤフォンで楽曲をコピーしながらどんどんデータを打ち込んで、ステレオフォンで音源のバランスやpanを確認するというやり方だったから、ヘッドフォンの消耗度は半端じゃなかったし、難聴になっちゃうかも、、という不安がいつもあった。

カラオケは1000曲以上作ったんじゃないかな...。

今思えば、その間、朝から夜中まで”音”を、自分が選んだ好きな音楽ではない”音”を、ずっとヘッドフォンで聞き続けていたと言えるのかもしれない。

 

最近は、外を出歩く時には街の音を聞く。

歩道を歩く親子の会話やお店から聞こえる威勢のいい掛け声、商店街にかすかに流れる懐かしい音楽や、遠くや近くを走るたくさんの自動車が出す都会の通奏低音のようなぼんやりとした音。

中でも格別なのが電車の中だ。

耳をそばだてている訳ではないけれど、自然と面白い話がいっぱい聞ける(笑)。

 

「おまえ、”みのうえしょ”、もう書いた?」

「いや、まだだけど、あの”みのうえしょ”って、書くの難しいな!」

 

ん~、それは”みのうえしょ”じゃなくて”しんじょうしょ(身上書)”だよ。身の上相談と同じ漢字だけど...。

ものすごく可愛い女子高生が友人たちに、”筋肉痛をいかに克服して立派な筋肉を作るか”について熱弁をふるっていたり、上品な初老のご婦人が、巧妙な手口の振り込め詐欺に危うくひっかかりそうだった話をとても美しい日本語で話していたり....。

つい先日、ちょっと興味深かったのは高校生の男子グループの会話。

 

「コンビニで美味そうな弁当とか買ってさ、一人で食べるのって最高だよな!」

「え~? それって寂しいだろ。やっぱ家族とかみんなで一緒に食べるだろ、ふつ~。」

 

最初に言った男子はみんなにやり込められていたけれど、私が高校生だった頃、一人でいるのが寂しいっていう感覚はほとんど無かったと思う。

友達と騒ぐのも好きだったけど、一人でいるのも大好きだった。

一人で自分の好きなものを食べるって、私も最高だと思うけどね....。

ただ、女で私みたいな事を考える人は、間違いなく婚期を逃しちゃうような気もする(笑)。

 

そんな電車の中で、ちょっと腕が当たったり足を踏みそうになって、慌てて「ごめんなさい!」と声を掛けた相手がヘッドフォンをしていると、まったくこちらを見向きも振り向きもしてくれない。

その時は、ちょっとだけ寂しい気分になるかな....。