男の香り

だんだんと汗ばむ季節になってきた。

街で若い男性とすれ違って、なんとも言えない良い香りに思わず振り返っちゃう事が時たまある。

ん、いい匂い!って軽くうっとりして、あれっ、今の人、男だったよね?って一瞬混乱し、男のお洒落もここまで来たか....と、微妙な焦りというか敗北感というか(笑)、路上で一人、意味もなく複雑な気持ちに陥る、、見えないところのお洒落って粋だから、よけい負けちゃった感は強いんだよね....。

 

ドラッグストアーに化粧品を買いに行ったら、制汗芳香スプレーのコーナーで高校生の男子たちが真剣に商品を品定めしていた。冷やかしや遊びじゃなく....。

ちょっとびっくりした。

セッションの仕事で行ったライブハウスで、先に来ていたべースのN君に「最近の男子高校生ってさ、汗止めスプレーとか使うんだねぇ。」と話したら、きょとんとして「それ、常識じゃないですかぁ?」と言われた。

考えてみれば、見るからに”部活後の野球部・サッカー部”な一団が電車にどかどか乗り込んで来ても、当然車内に漂うと思われる汗臭さを感じた事が近年ない。

みんな気を使ってるんだなぁ、と思い至った。

常識かぁ....。

 

平安時代の若い貴族たちは、衣に高雅な香を薫きしめてお目当ての女性のもとへ通った。

源氏物語・空蝉の巻で、夜、灯りのないまっ暗な邸の中を源氏が女の寝室へ忍んでいくのだが、わずかな衣擦れの音と薫き込めた香の香りで相手の女性は源氏と気付き、薄衣を残して逃げてしまう。

暗闇の中のかすかな音と密やかな香り、その妖しく張りつめた空気を想像するとちょっとどきどきする。

平安の貴族たちは、自分だけの香りを調合し持っていたという。

 

現代の男性が平安時代に先祖返りしているのじゃないとすると、男は本当は大昔からずっと、匂いに敏感で美しい香りを身にまとうのが大好きだったのかもしれない。

付き合っている女性に香水をプレゼントするってのは、彼女の為というより自分の好きな香りを側に置きたいって事だったりして...。

貰った事がないので真偽を確かめようがない(笑)!

 

街ですれ違って思わず振り返っちゃった男性たちの香りは、よく電車の中に充満している、うんざりするほど嗅ぎ慣れた流行りの香水の類いではない、品よく香る洗練された男の香りだ。

たぶん男の嗅覚は女より優れている。

それに、いったんこだわりだしたら女は男には到底かなわない(笑)。

『香しいもの』への追求が高じて、”僕の香り”ブランドができるのも時間の問題かもしれない。

 

私はどちらかといえば香水が苦手で、きつく香ると頭痛がしてしまう。無神経な人がトイレやエレベーターの中で香水を振りかけた後に出くわすと、冗談ではなく倒れそうになる。

私が大好きと思う匂いは、小さい頃、夕食どきに父の膝の上に抱かれていた時に嗅いだ父の着物の匂いだ。少し酸っぱいような苦いような、父の匂いのしみ込んだ暖かくてちょっとごわごわした着物の匂い。

我ながら、どうしようもないファザコンだ....(笑)。

男にとって『香り』は科学、私にとっては記憶かもしれない。