水泳

先日facebookを見ていたら、長年来の知人が、小さい頃は全然泳げなかったのに小学3年生のプール授業でいきなり泳げるようになった、と書いていた。

私も小さい頃、まるで泳げなかった。というより、”水恐怖症”で水そのものが怖くて怖くて、プール授業はまさに地獄の時間だった。

facebookがきっかけであの当時の事をつらつら思い出したが、”水恐怖症”は一体いつから始まったんだっけ...?。

 

昔住んでいた新潟市金鉢山町の家は、サンダル履きで歩いていける距離に海があり、よく父と一緒にあめ玉と浮き輪をもって海水浴に行った。

浮き輪をかかえてぷかぷか波に揺られ、時々足をバタバタさせたりしてちょっと泳いだつもりになり、砂浜で塔や堀をこしらえたり、あめ玉をほおばりながら少し熱い砂の中に冷えた体を埋(うず)めたり...、さんざ遊び飽きると、砂だらけの水着のまま帰りに氷水屋さんに寄って、父と氷あずきや氷レモンを食べた。

お風呂屋さんにも行ったけど、大きな浴槽に入るのが怖いなんて思ったことは無かったと思う。

 

だから、小学校のプール授業で水着に着替える時から体がガタガタ震え、水につかると唇が真っ青になって歯がガチガチいうなんて異常な症状は、自分でも何が何だか分からなくてずっと誰にも言えず黙っていた。

授業ではなんとか頑張って、だんだんと泳げるようになった。

ところが、あろうことかクロールのフォームが良いなんて体育の先生に褒められて、いきなり市の水泳大会の選手になってしまった!

授業でさえ地獄の試練だったのにこれから強化練習で毎日しごかれる....、もう目の前がまっ暗になった。どうしよう....。

ここでちゃんと断ればよかったのだが、「頑張れ!」と言われると「はいっ!」と言っちゃうのは今も変わらず私の悪い癖だ。

自分では何とか頑張れると思ったのだが、毎日続くあまりの精神的な恐怖に根負けして、ある日、意を決して職員室に行って辞めたいと言った。

先生は、「やる気がないのか?」と言ってがっかりした目で私を見た。根性の無いヤツと思われたのが悔しかった。

 

家に帰って両親に事の次第を説明したら、母が言うには「パパがお前を落としたから、、。」

お風呂屋さんで父がうっかり手をすべらせて、私はお湯の中に頭からぼちゃんと落ちたらしい(笑)。物心つく前の話しだ。

なるほどそれなら、首から上が水面に出ている限りはまったく平気なのだが、いったん頭が水にもぐってしまうととんでもないパニックに陥る、という症状に説明がつく。

もしそれが”水恐怖症”の真相なら、幼少期の記憶というのは恐ろしいなぁと思う。

まったく覚えていないような事も”無意識の記憶”として脳に残っているという事か....。

 

小学校を卒業するとだんだん水に潜るのも平気になって、高校3年生の夏休みはほぼ毎日、バスに乗って一人で市営プールに泳ぎに行った。

自分ではただの暇つぶしと思っていたが、もしかしたら、小学校の職員室で味わった悔しさが”無意識の記憶”に残っていて、もの言う事の無いもう一人の私が秘かに名誉挽回を企て、毎日せっせ黙々と泳ぐなんて事をプログラムしたのかもしれない。

コース台から何回も飛び込んで、競泳用の薄い水着が破けたなんて事もあったなぁ....。

あの夏、あれだけたくさん泳いだから、今はプールや海に行きたいなんて露ほども思わない(笑)。