森鴎外の離婚

つい先日の朝日新聞に、『鴎外「まったく気性合わず文筆の妨げ」』という記事が出ていた。

鴎外ファンとしては見逃せないので切り抜いておいた。

鴎外は二度結婚しているのだが、最初の妻登志子さんとの離婚のいきさつが記された文書が静岡県磐田市で発見されたそうだ。

 

1888年、ドイツ留学から鴎外が帰国して間もなく、はるばるドイツから、気丈にもたった独りで鴎外を追って来日したエリスという若い女性がいた。

森家存続の危機とばかりに、親族一同、彼女を宥めすかして帰国させたと記録にある。

明治の始め、国家の未来を背負ってドイツに官費留学した若き鴎外は、探究心と自負心と愛国心を胸に研究に励み、当時の日本人には珍しく欧州の文化にも溶け込んで日々の生活を目一杯楽しんだ。

そして永遠の恋人・エリスと出会った。

彼女とそのまま彼の地で結婚できたなら彼は本当に幸せであったろうし、日本中の鴎外研究家は存在せず、私も森林太郎という人を知る事もなかった。

 

初期の小説『舞姫』は、鴎外のこの”生涯に一度の恋”が基になっている。

『石炭をば早や積み果てつ。中等室の卓のほとりはいと静にて、熾熱燈の光の晴れがましきも徒なり。』

高校の授業で読んで、冒頭の数行でやられてしまった(笑)。

高雅な文体と生々しい恋愛事情がもの凄いミスマッチな感じで、森鴎外とはいったいどういう人なのだろうと、よく理解できないながらも凄く印象に残った。

 

エリスとの結婚は当時の国状や親族の心情からも到底不可能で、鴎外は親の勧めで、海軍中将赤松則良の長女登志子さんと結婚したが二年と持たずに離婚した。

その時の鴎外の心情を伝える資料が、今回、発見されたというのだ。

記事を読むと、無理矢理に好きでもない女性と結婚させられて、うまくやろうなんて気がはなから全く無かった事が窺える。

鴎外、相当頭にきてたんだなぁ....(笑)。

 

その後、長く独身でいたが四十過ぎで娶った二度目の妻が絶世の美人で、鴎外も「美術品」と友人にのろけていたらしいが、名家の令嬢のせいか我が儘で、義母と想像を絶する不仲で鴎外は長年悩まされた。  

『半日』という短編小説に書かれた嫁姑の確執は、文体が整然・冷静であるだけに余計に怖い....。

 

結局、鴎外の結婚は順風満帆とはいえないものだったが、子供たちは皆それぞれ父について著書を残していて、そこから見える父親・鴎外は、とてつもなく愛情深く繊細でいて心の強い人であった。

子供というのは親の本性を良く見ている。特に年頃の、感性鋭い女の子の目は絶対に騙せない。大人の狡さみたいなものを敏感に見抜くのだ。

娘たちにこれ程までに愛された鴎外という人に、どうにかして会ってみたかったと思う。

私も相当なファザコンで、彼女たちの気持ちが良くわかる。

初めて会う人にさえ父親の自慢話をついしてしまう、誇らしさと嬉しさと深い愛情と少しの悲しみ.....。

 

amazonで、鴎外の三男・類さんの著書『鴎外の子供たちーあとに残されたものの記録』を注文した。

折に触れ、森鴎外という人をいろいろな角度から眺める。作家として、明治の知識人として、軍人として、医学者として、男性として、父親として、家長として、官僚として。

まさに巨人、様々な葛藤を抱えながらも自らの能力・全力を振りしぼって誠実に闘った人だと思う。

 

 

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コメント: 4
  • #1

    かっちゃん (月曜日, 11 5月 2015 18:27)

     まったく同感です。

  • #2

    michiko (月曜日, 11 5月 2015 19:09)

    かっちゃんさん、きっと鴎外ファンの方ですね!
    エリス研究とか、ロマンを感じてしまいます...^ ^
    幕末から明治に生きた戦闘的文化人として、本当に興味が尽きません。

  • #3

    一刀斎 (金曜日, 28 8月 2015 16:43)

    私も鴎外が好きです。舞姫に「昇華(?)」されたエリスとのロマンスにも魅かれ続けています。ドイツの恋人が日本にまでやってきたとき、鴎外から子離れできなかった母、そして鴎外家の人々のパニックと修羅場も苦しいけどとても人間的ですね。確かにお見合い的・政略的結婚で押し付けられた赤松家との縁組はほとぼりのさめない鷗外には迷惑そのものだったでしょう。ただ、おそらく自分の意思でもないのにと告がされ、鴎外にも粗略に扱われた、姑にもいじめられたあげく、子どもを生んだ途端子どもを取り上げられた形で離縁された登志子さんもとてもかわいそうだと思いました。

  • #4

    michiko (金曜日, 28 8月 2015 20:07)

    一刀斎さん、コメントありがとうございます!
    おっしゃるとおり、エリスの存在があまりにも大きくて最初の妻・登志子さんの過酷な運命は取り上げられることがほとんどないですね。
    於菟さんもシゲさんから相当邪険にされたようですし、この母子は森家のおかげで本当にかわいそうな事でした。
    女性の立場からの視点というのは、一刀斎さんの指摘で初めて気づきました。
    私自身が女性なのに、完全に鴎外サイドに立ってましたね、、。
    日本が開化期を迎えた明治という動乱の時代、男女の愛の問題に"家”や”国家”が大きく介入してきて、鴎外はそれに抵抗しようと試みた最初のエリートだったんじゃないでしょうか。
    だからこそ、小説『舞姫』と実在のエリスに私たちがこれほどまでに心惹かれるのではないか、、。
    鴎外にとってエリスは、本当に永遠の恋人だったのだと思います。