外車

「最近の若いミュージシャンは、酒は飲まねぇし良い車にも乗りたがらねぇ奴が多いみたいだけど、そんなのはジイさんになってからカッコいい音楽なんて出来ないに決まってる!」

敬愛する某ベテラン・ピアニストが嘆かわしいとばかりにぼやいた。

酒はともかく、昔は確かにカッコいい音楽をやるミュージシャンはかなり高い確率でカッコいい車に乗っていた。

なめらかで香しい皮革のソファに沈み込みそうになるBMW

低い車体の下からゴーッと伝わってくる振動が何とも心地よいポルシェ。

上品で洗練された装飾にうっとりするジャガー。

ベンツやプジョー、ルノーやシトロエン。思えばお洒落な外車にたくさん乗せてもらったなぁ、、。

お昼はマセラティで夜はアルファロメオなんて凄い日もあったよなぁ、、。

ただ残念なのは、私は車なんてちゃんと走れば何でもいいと思うタイプで、更に悪い事に、思った事はそのまま言っちゃうタイプだ。

 

外車はとにかく故障する。

「また代車ですかぁ?」

さすがに睨まれて、「日本車はヤマハのシンセと一緒で故障しないですよねぇ。」なんて喉まで出かかった台詞を慌てて飲み込んだ。

面白い事に、故障した外車をヤナセに何回持っていってもちゃんと直った試しがないという話を、彼らはどこか嬉しそうに話す。まるで、身体の弱い美しい愛娘を風邪で医者に連れていったなんて話をするみたいに。

きっと、高級で美しいものを所有するという事が重要なのであって、移動の手段というのは二の次なのかも、、。

 

前出の某ベテラン・ピアニストは紺のマセラティに乗っていて、みんなが「凄い!カッコいい!芸術品だ!」と、感動的な讃辞を惜しまない中、「でも、紺色って地味ですよねぇ、、。」なんて言わないでいい事を私がポロッと言ってしまったから、みんなびっくりしてその場が凍りついた....()

お陰で、その後何回かマセラティに乗せてもらったけれど、優美なマセラティのデザインに紺色がいかにマッチするかの大変丁寧な説明を神妙に拝聴する羽目になった。

車はちゃんと走れば何でもいいなんて人が、軽々しく口を挟む次元の問題ではないのだと思い知った()