虫の声

新潟に帰ってきてから、毎晩10時が就寝時間だ。

東京にいた時は、夜10時なんてだいたい”元気いっぱい〜さぁこれから!”の時間帯だったから、わずか数ヶ月でよく適応できたものだ。

 

母と二人、寝室で横になって目を閉じると、しんと静まり返った夜の闇の向こうから秋の虫たちの声がにぎやかに聞こえてくる。中庭の草むらにいるコオロギや鈴虫たちだ。

「♪あれ、松虫が鳴いている〜」と口ずさむ。

母が「ちんちろちんちろちんちろりん〜♪」と元気よく歌う。

「♪あれ、○●も鳴き出した〜△X▼◎△X▼◎△X▼◎〜」

鈴虫だったかくつわ虫か、コオロギだったかウマオイか、、。

二人でうろ覚えの歌詞を適当につなげて、「♪秋の夜長を鳴き通す ああ、面白い虫の声〜」と〆て寝る。

 

さすがに、毎晩適当に歌っていると本当の歌詞が気になってきて、インターネットで調べてみた。

検索すると『むしきき』という記事の中でちょっと面白い事が書いてあった。

( 虫聞き:虫の鳴き声を賞美するために、夕方、郊外や野山に出向くこと )

 

*******************

日本人には人気の虫の声も、欧米人には騒音以外の何ものでもない....というのはよく聞く話です。

では、『虫の声を愛でる』という文化は日本だけのものかというと....そうでもありません。

西ヨーロッパとは別文化がルーツのギリシアなどの地中海地域・インド・中南米では、虫の鳴く声を楽しむ習慣が今でも盛んであり、中にはその声を聖なる神託としている地域もあるそうです。

 

*******************

ふ〜む、日本人だけじゃないんだ....。

それにしても、美しいもの( 視覚 )、美味しいもの( 味覚 )、香しいもの( 臭覚 )、手触りの良いもの( 触覚 )は、国によって若干の差はあっても基本的にはそれほどの違いは無いと思われるのに、聴覚において、ある国民が良い響きだなぁ、と感じる音が他の国民には雑音にしか聞こえないって何か凄い事じゃないだろうか。それは”若干の差”のレベルじゃない、そして単なる個人差ではなく国民単位の違いなのだ、、。

日本人は”風流”という文化をもっているから特殊なのだ、と思っていたら、他にも虫の声=良い音と感じる国々があると聞いて、人種と文化と感性の関係についての奥深さや不思議さを考えた。人間って面白いなぁ....。

 

その日はそれから、インターネットで見つけた少年少女合唱団の『虫のこえ』をPCから流して、母と一緒に2番まで合唱した(笑)。

 

幾日かして....。

夜、寝室で電気を消したらあまりに静かで??と思った。いつもこんなに静かだっけ?、、そうだ、虫の鳴き声が聞こえない!

はっと思い当たったのは庭の草取りだ。数日前、きれいに雑草を抜いてしまった。

でも公園があるのに、、。

家の庭のすぐ隣りには『ピノキオ公園』という、ゼペット爺さんのピノキオとはまるで縁もゆかりも無い小さな公園があって、可愛いブランコと鉄棒のスペースを囲むように雑草が生い茂っている。

虫たちは、我が家の庭と『ピノキオ公園』で盛大に”♪秋の夜長を鳴き通し”ていたのだ。

しんとした部屋で横になりながら、私が東京に行っている間に町内で公園の清掃会があったのを思い出した。

二つの住処を追われた虫たちは、ちりじりに何処かへ逃げていってしまったのだ!

 

あんなに頑張って草むしりをするんじゃなかった、、一匹でも二匹でも帰ってきてくれないかなぁ。裏庭の玉椿の下とかさぁ....。

もうすぐ長い冬が来るというのに秋の楽しみを一つ失くしてしまった(涙)。