眠狂四郎

父の影響で、小学生の頃から柴田錬三郎の時代小説を読んでいた。

シバレン(柴錬)の剣客ものは人気があって、中でも眠狂四郎は私のヒーローだった。

友だちが『若草物語』とか『赤毛のアン』を読んでいる時に、私は母の和裁用の長物差しを振り回して円月殺法を練習していた。

円月殺法は眠狂四郎の使う剣術で、剣の切っ先で大きく円を描き終わるまでに相手の息の根を絶ってしまうという恐るべき技だ。別に剣道に興味があった訳ではなく、ただただ眠狂四郎に恋をしていた(笑)。

 

***眠狂四郎:柴田錬三郎の小説に登場する剣客。.....転びバテレン( 江戸時代、拷問や迫害で棄教したキリスト教の宣教師 )と日本人の混血という出自を持ち、平然と人を切り捨てる残虐性を持つ。***(ウィキペディア)

 

狂四郎さまは暗い過去を背負い、虚無感を漂わせながらも圧倒的な剣の強さで悪い奴らをやっつける。それも”成り行きでしょうがなく”だから、正義の使者とは全然違う。

ニヒルな一匹狼で女を泣かす事はしょっちゅう、相手が悪いヤツならどんな美女だろうと容赦しない。

社会に背を向け無頼に生きながら、弱い立場の者には思いがけない優しさで情をかけ、権力に巣食う巨悪を許さず一人敢然と刃向かって行く。

ふ~、カッコいいわぁ....。

シリーズ全てを何回も繰り返し読んで、どっぷりシバレン・ワールドにはまった。

 

そんな遠い昔の憧れも、ずっと長い間忘れていた。

たまたま先日テレビを見ていたら、1963年~1969年/市川雷蔵主演・眠狂四郎シリーズ12本の中の一作をやっていた。( 今年は市川雷蔵・映画デビュー60周年だそうだ。)

円月殺法!

まさに眠狂四郎がそこにいた!

恋までした私が言うのだから間違いない(笑)。

 

小さい頃に想像で振り回していた円月殺法を実際に見れたのと、市川雷蔵があまりに眠狂四郎そのものだった事にもの凄く感動した。ドキドキした。

それに、昔の女優さんの風情というか立ち居振る舞いというか、今はもう失われてしまった日本女性特有の色香のなんと艶やかな事か!

市川雷蔵は、このシリーズ12作目の公開後間もなく、病で亡くなっている。

私の中で、眠狂四郎=市川雷蔵、市川雷蔵の亡き後、もう彼以外の眠狂四郎は存在し得ないと確信するに至った。

それにしても、享年37歳。

残念でならない、、本当に残念でならない....(涙)。

 

他の11作を探して見ようと心に決めた。