ミステリー好きの間で一般的なのは、やはりシャーロック・ホームズだ。
シャーロキアンという種族が世界中にいる。
それに比べて、ポワロは日本ではあまり人気がない。
NHKの海外ドラマ『名探偵ポワロ』で初めて知った人の方が多いんじゃないだろうか。
だいたい、外見からして女性にモテるタイプではないし、極端に几帳面でもったいぶった言動は男性からもきっと敬遠される。
小柄で小太り、卵型の頭と大きな口髭、寸分隙のない身だしなみで、何事にも左右非対称を嫌い、秩序と方法を何より重んじるベルギー人探偵。
長身でダンディー、麻薬常習者で整理整頓のできないホームズとは大違いだ。
第一次世界大戦中(1914-1918)、欧州大陸からイギリスに亡命してきたベルギー人という設定もなかなか興味深い。
当時のイギリス人はたいてい外国人嫌いで、特にフランスとイギリスは積年の敵対関係にあった。
ベルギーがフランス語圏であることを考えれば、作者アガサ・クリスティーが、国民に熱狂的に愛されていたシャーロック・ホームズと全く正反対のキャラクターをあえて創り出したように思われる。
イギリス人とフランス人の関係はかなり面白い。
イギリス人がフランス人を揶揄する呼び名「カエル野郎」は有名だ。
かたつむりやカエルを食べる変な野郎っていう意味だ。
対して、フランス人はイギリス人を「ローストビーフ」と呼ぶ。
ローストビーフが伝統的なイギリス料理だという事と、日照時間の少ない地で育ったイギリス人が、日に当たるとすぐに赤いローストビーフ色になるのをからかう意味があるらしい。(他に諸説あり)
『名探偵ポワロ』の中でも、「frog(蛙)」の場面はさりげなく何回か出てくる。
( 英語版で見ると、こういう翻訳に困る台詞(笑)が聞ける。)
子供の喧嘩レベルの悪口をいい年をした大人がポロっと口にしてしまうというのは、なかなか根の深い国民感情である事をうかがわせる。
他にも、ポワロは度々、登場人物のイギリス人たちから「外国人!」「フランス人!」と偏見をもった差別的なニュアンスで接される。ポワロはベルギー人なのだが、、。
英仏は、中世の昔から血なまぐさい戦争を繰り返してきた。
有名なのは「百年戦争」。ジャンヌ・ダルクが大活躍した戦争だ。
調べてみたら、本当に100年以上(1337年〜1453年)、休戦の時期もあるが116年もの間、イギリスとフランスは酷い対立状態にあった。
その後も、インド植民地を取り合ったり、アメリカ独立戦争でフランスがちゃっかり参戦したり、ナポレオンがイギリス征服を企んだり、まぁ仲悪いったらこの上ない。
実に千年に渡って戦ってきたのだ。
ポワロ初登場の事件『スタイルズ荘の怪事件』の発表が1920年、第一次世界大戦が終わって間もなくである。
この頃、列強諸国は大戦の反省からヴェルサイユ体制で国際協調を謳い、イギリスはフランスと共にドイツ軍国主義を封じ込めようとしていた。
英仏は、共通の強敵を前にして、ようやく関係改善に舵を切った。
そんな時代背景を考えると、ベルギー人のポワロとイギリス人のヘイスティングス大尉というのは、言わば国家親善カップルみたいなもので、クリスティーがもしかしたら「戦争はもうたくさん!」って思っていたのかもしれないなぁ、、なんて想像してみる。
長い歴史を乗り越えて、英仏は今ではトムとジェリーくらいの仲良し--仲良くケンカしな〜♫ 的な友だちになった。
その激動の転換期が始まる時代にポワロがイギリスからデビューしたというのは、まさに”時代の空気”だ。
フランス人という直球を避けてベルギーからの亡命者にしたのは、クリスティーの絶妙なバランス感覚だったかも、、。
ともかく、この後エルキュール・ポワロは時代を超え、シャーロック・ホームズと並んで世界中で愛される著名な名探偵になる。(写真はWikipediaより)
***Part3に続く***
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ぅぉ (日曜日, 21 10月 2018 07:02)
rosbif(ローストビーフ) に、homard(オマール)ですか。
オマールはちょっと調べてみた。w 日に焼けて赤くなるだの、軍服が赤いだの
大変ですなー。 勉強になります。
私が知ってるのは、アメリカで言われてる、limey(ライミー)だけです。 海軍さんが
壊血病対策にライムを一杯摂取してるからだそうです。
michiko (日曜日, 21 10月 2018 07:58)
homard、limey、知らなかったです!
イギリスとアメリカってのもいろいろありそうで面白いですね〜。
調べて書いてみたくなりました^ ^。