ポワロ -Part6-

TVドラマ『名探偵ポワロ』は、1989年、イギリスのLWT(ロンドン・ウィークエンド・テレビジョン)によって制作が始まった。

 

ドラマを作るにあたり、その時代背景は1936年に設定された。

なにしろクリスティーのポワロものは、1920年のデビュー作『スタイルズ荘の怪事件』から、ポワロ最後の事件『カーテン』まで、実に55年に及ぶ。

その間、ロンドンの街の様子、交通・建築・ファッション等々、あらゆる物が劇的に変化していったわけで、設定年代を具体的に決めた方がドラマのイメージがはっきりするというプロデューサーの考えだった。

 

英国にとって1930年代後半といえば、後に世界を大きく変える近代的発明品がたくさん考案され、未来への希望にあふれた新しい時代だった。

当時の最新流行だったピカピカのクラシックカー、女性たちの個性的な帽子や色鮮やかなファッション、伝統的な風景の中に突然現れるモダンな建物。ドラマの背景には、そうした時代の先端にあった様々な事物と一緒に、歴史的な事件も記録映像を交えて挿入されている。

 

例えば、豪華客船クイーン・メリー号の処女航海、イギリス皇太子(エドワード8世)の英領インド訪問、ファシズム(ナチス)の台頭、フレッド・ペリーの全仏オープン・テニス・トーナメント優勝とグランドスラム達成、G・ガーシュインの死去、等々。

 

 


史実と物語を上手に絡めて、あたかもポワロやヘイスティングス大尉、ミス・レモンやジャップ警部が本当にその場にいたように思わせてしまう、時代に溶け込ませてしまう、、。

こういうところ、イギリスのドラマ、特に脚本家のレベルがほんと凄いなぁ。

まぁ、シェークスピアがいた国だから当たり前か。でも日本だって、近松門左衛門も河竹黙阿弥も、井原西鶴だっていたのだ。

脚本がほんと大事だって、ようやく日本のテレビドラマ界も分かってきたようだけど、奇をてらうような斜め上の方向に行っているようなのも多い、、。

そうじゃないんだってばぁ、、(泣)。

 

『名探偵ポワロ』シリーズは世界的な人気を博したが、美術の面でも高い評価を得ている。

ポワロが住む ”ホワイトヘブン・マンション” (実際は、チャーターハウス・スクエアに建つ”フローリン・コート”)は、1936年に建てられたアール・デコ様式の建物で、外壁の大きなカーブが優雅で美しい。

私はよく分からないのだが、ドラマで使われる家具などの調度品や俳優のファッションは、ジュエリーなどの小物に至るまで当時のアール・デコ様式でほぼ統一されているらしい。

美術における1930年代の世界観が、専門家の目から見てもとことん再現されているのだ。

 


そして、あの有名なオープニング。

 

哀愁のある古風な音楽はどことなくイギリス的で、ミステリーに付き物の、”誰の人生にも起こり得る悲しい災難の予感”という危険な香りがそこはかとなく漂う。映像には当時珍しかったコンピューター技術が導入され、「テレビ番組で最も斬新なもののひとつ」として非常に話題になった。

「30年代の装飾的なキュービズムの雰囲気を作り出し、マラード号(蒸気機関車)の車輪から’ポワロ’というタイトル文字が浮かび上がる映像の撮影には何か月もの時間が費やされた。」(ピーター・ヘイニング著『名探偵ポワロ』)

ふむ。。ってことでキュービズムについてちょっと調べてみた。

 

*キュービズム (Wikipedia)

 

20世紀初頭にパブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックによって創始され、多くの追随者を生んだ現代美術の大きな動向である。それまでの具象絵画が一つの視点に基づいて描かれていたのに対し、いろいろな角度から見た物の形を一つの画面に収め、ルネサンス以来の一点透視図法を否定した。〜以下略〜

 

      ファン・グリス『ピカソの肖像』(1912)


そういえば、ドラマの中で、容疑者の部屋にあった大きな絵画がキュービズムだったような、、。

 

ポワロ・シリーズは、プロデューサーや制作会社が変わったりして若干の変化があったが、その世界的な人気は衰えることがなく、ほぼ全ての原作を映像化して、2013年6月、24年の歳月を経て完結した。

制作スタッフのクリスティ作品へのリスペクトやプロ意識、その結果としてのドラマの質の高さを改めて感じる。

 

日本の長寿ドラマと言えば....、『水戸黄門』かぁ....。

あ、『相棒』も18年!

けっこう好きです、杉下右京さん。24年までもう一踏ん張り ^ ^//

 

***Part7に続く***

 

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コメント: 4
  • #1

    ぅぉ (水曜日, 19 12月 2018 04:08)

    そんなに変化のある時代なら、使えるようになるトリック、使えなくなるトリック
    がその微妙な時期により変わったり、面白そうですね。

    ミステリーじゃなくても文明の利器によってお話が変わってしまうこともありそうだし。

  • #2

    michiko (水曜日, 19 12月 2018 14:42)

    タイムトラベル系は、ジャンルに関係なく人気ですよね。
    そのうち本当に発明されたら、世の中とんでもないことになりそうだけど、、。

  • #3

    ぅぉ (水曜日, 19 12月 2018 22:13)

    えっと そう言う話ではなく、時代によって科学や化学の進歩により、当時こんな概念
    は存在しない。  とかこの時代はこんな薬品は発明されてたはず的な、時代考証が
    面白いてきな。  まぁ、私はそんなのが分かるほど頭良くは無いですが。

    文明の利器の話は、ポワロさんの時代には無い、携帯電話一つとっても、これが
    無いだけで話をいくらでも膨らませられるって話をしたかった訳でして、携帯電話
    に限らずって事で。

    タイムトラベルに関しては結構冷ややかに見てまして、私的には戦国自衛隊
    見たいになるのは納得できるけれど、バックトゥザフュ-チャ見たいなのは
    楽しくは見ましたが、何でやねんって突っ込みいれたくなる感じ?

  • #4

    michiko (木曜日, 20 12月 2018 08:48)

    あ、そうだったんですね。失礼しました ^ ^;;
    たぶん、私を含めてほとんどの古典ミステリーファンには、そういう発想がないので面白いなぁ、と思いました。興味深い視点ですね。
    時代考証とか、もしこの時代に携帯があったらとか考えて流行作家さんが本を書いたら売れそう、、。
    ホームズくらい昔のになると、トリックはツッコミどころ満載なんですが、クリスティは薬学の知識もあったからか、あまり変な筋書きはないようです。
    それでも当時のリアルタイムで書かれたお話ですから、今読むと?なところは、結構あるかもですね。