ポワロ -Part7-

2013年11月、世界中のポワロファンは大きな悲しみに包まれたに違いない。

本国イギリスで11月13日、ポワロ最後の事件『カーテン』(デビッド・スーシェ主演シリーズ完結編)が放送された。

各国で日にちは違うと思うが、日本では2014年10月6日(NHK/BS)である。

 

私なぞは、NHK『名探偵ポワロ』の番組予告で『カーテン』という文字を見かけただけで、奈落の底につき落とされるような絶望感に打ちのめされた。

(はぁ、、ちょっと大袈裟なんだけど、、。)

それにしても、いつかこの日が来るとは分かっていたけれど、あ~とうとう来てしまったのね、これから私、どうすりゃいいの? ってのがドラマのファン達の共通の気持ちだったんじゃないだろうか。

                         (NHKのFBより)

『カーテン』で、ポワロはこの世を去る。

この小説は1975年に発表されたのだが、まるで犯人と刺し違えるかのような彼の最期は、世界に衝撃を与えた。

 

*以下、ピーター・ヘイニング著『名探偵ポワロ』より引用

 

<ポワロの’死’のニュースは、小説が書店に並ぶ前にニュースとなった。

これによって、ポワロがいかに卓越した人物であったかが再び証明されたのである。

ポワロの”死亡記事”は、すべての英国の新聞に掲載され、さらに”ニューヨーク・タイムズ”紙の一面にも掲載された。

それは、ほんのわずかの’実在の’人物にしか与えられない栄誉であり、まして架空の人物にそんな栄誉が与えられることはなかった。>

 

 ”デイリー・テレグラフ”

  ー19758月7日付ー


実は、この作品が執筆されたのは1943年で、発表の32年も前である。

アガサ・クリスティーは1920年にポワロをデビューさせてから、長編も短編もたくさん書いているけれど、どうもポワロが心底好きじゃなかったらしい。

「こんな憎たらしくて、おおげさで、退屈な小男……絶えず口髭をいじくりまわして、卵のような頭を傾けているような奴を、いったいどうして!どうして!どうして作ってしまったんだろうと思ってしまうことがあるわ。ペンをちょっと動かせば、こんな奴完全に消滅させてしまえるのに」(1938年”デイリー・メイル”紙より)

恋人ならとっとと別れるけど、夫婦なら仕方ないっていう感じかなぁ、、。

独身・彼氏ナシの私が、勝手に妄想を膨らませてみる、、。

 

1943年、クリスティは『カーテン』を書いてポワロを葬り去った。もう我慢できない!あんたの顔なんて見たくないって感じか、、。

でも、その原稿は出版社との協議で、耐火・盗難防止金庫の中に厳重に保管された。

世界中の読者たちが到底、納得するはずがなかったから。

そして32年後の1975年、彼女が亡くなる3ヶ月前に『カーテン-ポワロ最後の事件』として出版された。

 

コナン・ドイルも、ホームズをライヘンバッハの滝で抹殺しようと画策したけれど、読者の凄まじい抗議で『シャーロック・ホームズの帰還』になってしまったというのは有名な話だ。

 

そう言えば、『ミザリー』って怖い映画があったなぁ、、。

熱狂的な愛読者が、主人公が死ぬという物語の結末に怒り狂って作家さんを監禁しちゃうってやつ。

生みの親の作家を飛び超えて、創られた架空のキャラクターの大ファンになるって、考えてみれば皮肉な話だ。

 

  ライヘンバッハの滝

    (Wikipediaより)


「作中の人物たちが自由勝手に動き出す。」小説や脚本を書く人がこう話すのを時々聞く。

物語の世界が、現実のように偶発的に動き出すという意味だと思うが、そんなファンタジーみたいな事が本当に起きるのなら、私もいつか小説を書いてみたいな、と思う。

大嫌いにならないような登場人物にしておかないとストレスが凄いことになりそうだし、ストーリーも書きたい題材もまるで浮かばない、何よりそんな才能もないのだが、ただ「作中の人物たちが自由勝手に動き出す。」っていうのを体験してみたい。

どんなものか、想像もつかないワクワクな未知の世界だ。

 

クリスティーとポワロの間にも、作品からは窺い知れないドラマがいっぱいあったのだろう。

彼女の想像の世界で、ポワロは思う存分”暴れまくって”いたに違いない。

 

ノン!ノン!そんな馬鹿げた事、書かないでください。ウィ、私を世界最高の探偵と書いてくださいね。貴女の脳細胞はどこに行ったんですか?まさかそんなくだらない事、私がやるはずないじゃないですか!オーモンデュ、あなた最低ですね、、。

 

まぁ、嫌いになるかも、、。

クリスティーの想いに反して、エルキュール・ポワロはシャーロック・ホームズと同じくらいもの凄い人気者になった。

「なんで?!」とか、思ってたかなぁ、アガサ・クリスティー、、。

 

***Part8に続く***

                                            


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コメント: 9
  • #1

    ぅぉ (土曜日, 22 12月 2018 22:15)

    なんだか悲しいですね。 でも、ポワロさんは死ぬことが出来た。
    いゃ、亡くなる事が良いことと言ってるわけではないのです。

     でも作者がなくなっているのに行き続ける事を余儀なくされている方々は
    どうなんだろうかと。 身近な所では、サザエさん、アンパンマン、野原しんのすけ君
    最近、さくらももこちゃんが仲間入り。  何か切ない気がします。
     そして身近でない所では藤枝梅安さん 志なかばに身動き取れないって・・・

     そんなことを考えていたら、某、火垂の墓の兄妹を思い出してしまった。
    彼らは亡くなってはいるけれど、何十年もあの数日を体験し続ける煉獄に
    いるのだそうで、なんだかねぇ。

     創作物に心も何もあったものではないのだけれど。 原作者の言う勝手に
    動き出すではなく、実際に現実世界で創作物が動き出すアニメを去年かな?
    見たもので。

  • #2

    まっち (日曜日, 23 12月 2018 02:31)

    イアン・フレミングは、自分に無い頑強なボデイ、男っぷり、旺盛な食欲を、又紫式部は、類稀な美貌を主人公に与えたました。

    どうせ書くなら、現実にはいない理想の男にしてみられては?

  • #3

    michiko (日曜日, 23 12月 2018)

    ぅぉさん、藤枝梅安さんて、志なかばだったんですね。それは切ない、、。
    吉右衛門さんの鬼平犯科帳が終わった時は泣きましたが、まぁあれはあれで良い終わり方だったんじゃないかな、と思います。
    作者が亡くなってしまうというのは、Fanにとって大変な悲劇ですね。

    去年見たアニメ、気になりますな ^ ^

  • #4

    michiko (日曜日, 23 12月 2018 08:57)

    まっちさん、007シリーズ、ファンでしたよ〜。映画じゃなくて原作の方。
    源氏物語も、その為に国文科に入ったようなもので、、。
    好きな作家、作品はいっぱいあるけれど、自分で書くとなると別の世界の話ですね。
    でも、いつかこっそり(笑)書いて、登場人物とやり合ってみたいです!

  • #5

    ぅぉ (火曜日, 25 12月 2018 22:42)

    梅安さんは確か白子屋を倒すつもりになって、絶筆だったかと。

    鬼平さんも原作は話、途中のエピソードがあるはずです。 wikiに書いてあった
    ような気がします。

    アニメはこれです。
    https://recreators.tv/

  • #6

    michiko (水曜日, 26 12月 2018 09:51)

    アニメのHP、のぞいてみましたが、絵が圧倒的に美しいのと、キャラクターの名前が超絶難しいのにびっくり。
    アニメは、ビジュアル的にもストーリー的にも激しく進化してるんですねぇ、、。

  • #7

    ぅぉ (木曜日, 27 12月 2018 22:38)

    名前難しいのは昨今の流行です。w

    別アニメで、小鳥遊(たじゃなし)さんて名前を何人か見ました。w

  • #8

    ぅぉ (木曜日, 27 12月 2018 23:20)

    あっ!

    間違い 失礼しました。

    誤:たじゃなし
       ↓
    正:たかなし

  • #9

    まっち (金曜日, 28 12月 2018 02:04)

    江戸川乱歩の「押絵と旅する男」では、実際に創作物の中に人が入ってしまう。
    ここまで行かなくても、現実が創作世界に影響されてしまう様なことは普通にある事だと思います。
    これが、作者側に起こってしまうと云う事なのでしょうか?

    漫画家の高橋しんさんは「最終兵器彼女」で、ある登場人物の死を描いたとき、何故か予定外に盛り上がってしまい枚数が増えたそうです。
    そして、その死に影響されたのか、高橋さん本人まで暫く落ち込んで滅入ってしまったそうです。

    登場人物とのやり合い、是非読んでみたいです。