非日常生活

夕方5時過ぎ、武蔵境のライブハウスに向かってテクテク歩いていた。

その日のライブは私がリーダーだったので、駅を出てからずっと、曲のイメージやどんな構成にしようかとか、とにかくあれこれ考えながら歩いていて、もうすぐお店に着くというタイミングではたとスマホがない事に気付いた。

 

え? え? まさか、、?

バッグの隅々まで探しても見つからない。

初めての体験だったのでにわかに信じられず、ばくばくパニくった。

歩いて来た道をたどってみたが、どこにも落ちていなかった。

 


お店でのリハーサル開始時間はとっくに過ぎていたのでそのまま引き返してライブをやり、深夜、家に帰ってからが大変だった。

なぜと言えば、翌朝、新潟に帰省するスケジュールになっていて、高速バスはすでに予約済み、地元では友人たちといろいろな予定を立てていたからだ。

 

まずは、スマホ紛失時に何をどうするのか、PCで検索してとりあえず”緊急通話停止”というのをやった。

スマホはロックされているので、これで悪用されることはないと知ってちょっと安心、、。

位置情報をオンにしていなかったので、「iPhoneを探す」という便利な機能は残念ながら使えない。

でも、ネットで沢山の外国人が「日本では、スマホも財布もカメラもほとんど持ち主に戻ってくる!」とか感動して書いているのをよく見ていたから、たぶんすぐに見つかるだろうと思っていた。

 

JRお問い合わせセンターや警察署、新潟で会う予定の友人たちやお店の電話番号を調べて手帳にメモし、調整が難しそうなものは事情をメールしてキャンセルにしてもらった。

どこかにテレフォンカードがあったはず!とごそごそ家捜しして、数枚のカードを見つけた頃にはもう夜中の2時過ぎ、脳がフル回転したせいかあまり眠れないまま新潟へ。

 

実家に着いて、買い物がてら公衆電話がある場所を近くで探したら、まぁ今時、郵便局も銀行もスーパーもどこも公衆電話なんて置いていない。

 

まさかのセブン-イレブンの店先にようやく発見。

 


実家にはPCも固定電話も無くて完全な”陸の孤島”状態に陥ったわけだが、日頃から電話嫌いを公言している事もあって、精神的には妙な安らぎを感じる。

『変身』で、ある朝起きたら”虫”になっていたグレゴールって、もしかしてこんな気持ちだったかもね、、なんてお気楽な想像をしてみた。

 

ただ、会う約束をしている友人たちには、前日にこちらから確認の電話をしておいた方がいいと思って、セブン-イレブンまで何回も往復した。

ある人は「公衆電話から不審な着信履歴が、、」と警戒し、ある人は連絡がつかないとまずいからと、わざわざ家まで訪ねてきてくれて、ある人は不在だったので何回も伝言を頼んだり、いろんな人に多大な迷惑をかけつつ、それでも、そうやってやっと会えた人たちと本当に楽しい時間を過ごした。

 

これってまさに非日常の世界だよなぁ、、とどこか客観的に眺めている自分と、なんとか状況を乗り越えようと頑張っている自分が可笑しいほど明確に共存していて、その構図がちょっと新鮮に思えた。

この感覚は、家族や同居人がいる人にはうまく説明できない一種独特なものかもしれない。

孤立ゆえの楽観主義、というか、孤軍奮闘を楽しむ感覚というか、、。

 

新潟は一週間の予定だったので、スマホ/PC無しの生活が一体どういう事になるのか、身に染みて体験する貴重な機会になった。

連絡先はもちろん、バスや電車の発着時間、宅配便の手配、家計簿、『虎ノ門ニュース』、ゲームや音楽、全てできない、出先だと今何時なのかも分からない、どんなに沢山歩いてもポイントが貯まらない、、。

 

東京に帰って、真っ先に近くの交番に行ったが、まだ見つかっていないとのことだった。

もう一週間だし、駄目かもなぁ、、とほとんど諦めていたら、auから「落し物、届いてます」のお手紙が来た。

 

 

 

 

交番でもらった遺失物届け出の書類と、auから来た「落し物、届いてます」の封筒。

 

記念撮影(笑)。


FBにこの事を書いたら、「日本は素晴らしいですねー!」とコメントをもらって、同感だったので「日本に住んでてほんとよかったぁ~。」と返信した。

交番のお巡りさんが、「中には、スマホの中身を改造して自分のものにしてしまう悪い人もいます。」と言っていたから、良い人に拾ってもらって本当に幸運だったのだと思う。

 

12日ぶりに対面した我がスマホをクリーニングクロスで拭きながら、「これからはもっと大事にするね。」と語りかけた。

「あなたがいないと、もの凄く大変なことになるってよく分かったよ!」

 

カフカ的世界も妄想できたし、警察庁と警視庁はシステムの違う別組織だって事も分かったし、なかなか有意義な経験だったとは思うけれど、さすがに一週間の”非日常生活”は、身も心も疲れた、、。

 

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コメント: 13
  • #1

    ぅぉ (木曜日, 21 3月 2019 11:16)

    お疲れ様です。
    私も、10年くらい前でしょうか、ガラケーを通勤バスに置き忘れた経験があり、
    その時は肝を冷やしました。  その時は運転手さんが気付いてくれ車庫で
    保管してくれてました。

    日本でよかったです。  聞く所によると、南半球の某国では、腕時計なんか
    してた日には、腕ごと持ってかれると聞いたことが。(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

    警察庁と警視庁は、相棒でいがみ合ってる描写がありましたが、警察庁長官
    の中の人(宇津井さん)が亡くなられそう言うのが見れなくなりましたね。
    更に言うと警視庁副長官の中の人にいたってはいつの間にかしれっと
    変わって(大杉蓮さん→杉本哲太さん)るし誰が誰だか良くわかりませんねw
    娘さんのエピソードのとき父親が代わっててびっくりしました。

    ちなみに、官房長?(岸部さん)と、次長(石坂さん)は警察庁

  • #2

    ぅぉ (木曜日, 21 3月 2019 12:42)

    FBで書いた映画の予告
    https://www.youtube.com/watch?v=n9XjqzOKBxY

    北川景子さんにさほど興味なかったので見てませんが。
    しかしながら先日、響-HIBIKI-は見ました。

  • #3

    michiko (金曜日, 22 3月 2019 09:40)

    腕ごとって....-_-;;ブルブル....。

    新潟中央警察署に、東京の落し物情報、調べてもらえないかなぁと甘いこと考えて行ってみたんですが、「東京はねぇ、、。あそことはシステムも繋がってないしねぇ。」と微妙な空気が、、。多分、仲悪いと思う、、(笑)。

  • #4

    michiko (金曜日, 22 3月 2019 09:46)

    『スマホを落としただけなのに』
    予告編を見たら、もうゾクゾク怖い!体験がつい数日前ですからね。
    中田秀夫監督だし、もう見るしかない(笑)!

  • #5

    ぅぉ (金曜日, 22 3月 2019 12:25)

    監督までチェックしておりませんでした。
    リングの監督さんなんですね。

     あと 仄くらい水の底から でしたっけ? 怖いらしいですね。
    見たことないですが。

  • #6

    michiko (金曜日, 22 3月 2019 13:52)

    『仄暗い水の底から』は傑作です!
    ホラーファンの私としてはかなりポイント高いです。ただ怖いだけのお話しじゃないってのが良いです。
    アメリカのリメイク版もとても上質。見るならこっちかなぁ?

  • #7

    ぅぉ (金曜日, 22 3月 2019 22:41)

    ダーク ウォーター 吹き替え版の声優さんに少し興味あり。
    しかし、怖いのはなぁ~。

  • #8

    ぅぉ (土曜日, 23 3月 2019 06:13)

    ちなみに、各県の警察署を取りまとめるお役所が警察庁。
    各県の警察署、○○県警 というのの東京版が警視庁。
    とのことだそうですよ。

  • #9

    michiko (土曜日, 23 3月 2019 07:18)

    警視庁が巨大過ぎるんで、警察庁の手に負えないって感じですかねぇ、、。

  • #10

    ぅぉ (土曜日, 23 3月 2019 21:45)

    どうなんでしょうか。 そこまで詳しい事情はぞんじあげないです。

     そうそう、ダーク・ウォーター見ました。仄暗い水の底からはツタヤさんにも
    ゲオさんにも置いてなく、ダーク・ウォーターはゲオさんにのみ在庫があった為
    レンタル出来ました。  怖いと言うより切ないですね。

  • #11

    まっち (日曜日, 24 3月 2019 08:15)

    電話お嫌いでしたか。
    迷惑電話を掛けまくってしまおうかな。

    ところで、変身ものといえば山月記かな。

  • #12

    michiko (月曜日, 25 3月 2019 09:46)

    "臆病な自尊心と、尊大な羞恥心"(山月記)
    心が痛くなる言葉です、、。

  • #13

    まっち (月曜日, 25 3月 2019 20:32)

    ですね。