小さい頃、夜寝る時に、父が添い寝で物語りをしてくれた。
物語りは父が覚えている昔話ー『桃太郎』とか『猿かに合戦』なんかだったと思うのだが、どうせ桃太郎や蟹たちが大活躍するずっと手前で眠ってしまうのだから、ストーリーも最初だけでほとんど適当だったと思う。
それでも毎晩「お話し〜。」とせがまれて、父もだんだん面倒くさくなる。
ある日、いつものようにお話しが始まった。
「昔々、あるところに、小さな村がありました。
村には大きな川が流れていて、すぐそばに大きな樫の木が立っていました。
ある日、強い風がピューッとふいて、一枚の木の葉が枝から落ちました。
木の葉はヒラヒラ風に乗り、ポチャンと川に落ちて、どんぶらこと流れていきました。
また風がピューッと吹きました。
すると木の葉がまた一枚、枝から落ちて、ヒラヒラポチャンどんぶらこと川に流れていきました。
また風がピューッと吹きました。
木の葉がまた一枚、、、、」
これがずっとずっと続いて、いくら3〜4歳児でもさすがに眠るどころではなくなり、いつまで風がふいて木の葉が落ちるのか父に聞くと、葉っぱが全部落ちるまでだと言う。
「このお話はやだぁ!」と抗議すると、
「黙って聞け。葉っぱが全部落ちたらものすごいんだぞ。」と平気な顔をしている。
仕方がないので我慢して聞いているうちに、スヤスヤ寝てしまう。
次の日も「昔々、大きな川があって、樫の木が、、」と始まるので、
「違うお話し〜。」と騒ぐ。
「もう少しで葉っぱが全部落ちるのに。ここでやめたらもったいない。」
そうかもしれないと、淡い期待を抱きながら聞いているうちにまた寝てしまう。
我が子が拗ねようが哀願しようが構うことなく、父の木の葉の話しはバリエーションを交えながらその後も続いた。
そのうち、木の葉が全部落ちた後にどんなスペクタルが待っていようがどうでもいいくらいにすっかり飽きてしまい、もう父にお話しをせがまなくなった。
"お話し"は卒業した。
今思えば、完全なる父の作戦勝ちだった(笑)。
ここ半年以上、不安と退屈を持て余す日々が続いていて、忘れかけていた昔の出来事がふと頭に浮かんだ。
布団にくるまった小さな私と、隣りで肘枕で横になっている父。
あの時の、父の柔らかい優しい声を思い出してみる。
すると、大きなものにただただ甘えて眠る安らかな感覚がふわっとよみがえってきて、すごく幸せな気持ちになった。
少しだけ心が強くなる気がした。「うん、大丈夫。」ってな気分になった。
コロナ自粛による慣れた不安に加えて、ここ数週間、アメリカや日本、世界を覆う得体の知れない大きな脅威をひしひしと感じる。
何が正しいのか分からなくなったり、憤りを感じることもある。
そんな時にふっと思い出して安心する、小さな避難所を見つけたような気がした。
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ぅぉ (木曜日, 10 12月 2020 15:29)
羊が1匹、羊が2匹・・・ の世界ですね。 GJ、お父様
Michiko (木曜日, 10 12月 2020 15:54)
ハハ、、。まさにそれ!