カンディンスキーのA4版ポスターを2枚買った。
額に入れて白い壁に掛けたら、ちょっと気持ちがウキウキした。
カンディンスキーの絵はだいたいが何を描いているのか分からない抽象画なんだけれど、眺めていると何故か嬉しくなる。
不思議な音が頭の中に聞こえてくる。
空間をワープして見知らぬ世界に行けちゃうような気がしてくる。
この小さな高揚感は、昔『未知との遭遇』を見たあとの気持ちに似てなくもない。
いつから彼の絵が好きになったんだろう。
昔、創元推理文庫にどっぷり浸っていた頃、イギリスの警察ものだったか--作品名もストーリーも思い出せない--ある犯罪捜査の手掛かりになっていたのがカンディンスキーの絵だった。
作中で何度も繰り返されるその名前が気になって、どんな絵なんだろうなぁ...と思っていた。( Googleのない時代だ。)
その後、何年もすっかり忘れていた。
ある日、渋谷の文化村ミュージアムにゴッホ等の有名な画家と一緒にカンディンスキーの絵がやって来た。
そう言えば、、と思い出して渋谷に出かけた。
絵を見るのは好きだけれど、画家の名前はほんの数人しか知らないし詳しくない。
その日も、カンディンスキーにそれほど期待していた訳ではない。
美術館に入って、いろいろな絵を見ながら--時々立ち止まったりして--ゆっくりぷらぷら歩いていたら、不意を突くように突然、巨大な抽象画が目の前に現れた。
まったく、予想以上に大きかった。
--Kandinsky『Multiple Forms』 (1936年) 97cm/130.5cm--
黒く塗られたキャンパスの上に、ごちゃごちゃと得体の知れない物体が多数うごめいていた。
絵の大きさに圧倒されながら、「こりゃいったい何?」と戸惑った。
少し落ち着いて眺めていると、何やら楽器のような物がそこかしこに見えて来て、そのうちに頭の中に笛みたいなヒュー、ポーという音、竪琴のポロロンみたいな音が聞こえてくる気がした。
そう、得体の知れない楽器のような物が、それぞれ横揺れ縦揺れ(笑)しながら音を出しているのだ。
面白い絵だなぁ…。
にやっとしながらずいと近づいて見てみると、輪郭のラフさというか、絵筆のスピード・勢いに驚いた。
緻密に繊細に描いているのかと思いきや、軽快に大胆に、少々はみ出ても気にしない、スイングしながら描いたのか?と疑うほど、絵全体が躍動していた。
ふぅ〜っと息を吐いて、誰かとこの感想を言い合えたらいいのに、と思った。
絵を描いている人と-カンディンスキー氏と-時空を超えて空気を共有しているような、何と言うか、ただ単純に嬉しい気持ちを誰かと話せたらいいのに、、と思ったのだ。
こう書きながら、あの時の気持ちが昨日の事のように蘇った。
文化村で見たカンディンスキーの絵は、音楽そのもののようだった。
空気を伝わる旋律がキャンパスの上で踊っていた。
部屋の白い壁に掛けた小さなA4版の絵を振り返って見た。
こんな絵のような音楽を、いつか弾けるようになりたいなぁ、と思った。
スイングしながら軽快に大胆に、少々はみ出ても気にしない、でも緻密に繊細に美しく、、。
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