池袋演芸場

猛暑が続いてバテ度合いが加速している。

夕方5時を過ぎても全く暑さがおさまらない中、よろよろと池袋まで出かけた。『〆治 しん彌 ふたり会』という落語の催しがあるのだ。

池袋駅から街に出て、地図を確認するのも億劫だったので、駅前交番で「池袋演芸場ってどこら辺ですか?」と訊ねた。

すぐに元気な若い女性警察官が、「あそこのビルの地下ですよ^ ^ 楽しんでくださいね!」と笑顔で答えてくれた。

ふんわり嬉しくなって、私も笑顔になった。

可愛らしい女性の持つパワーはマジ絶大だ。( フェミニズム活動家が、時々訳のわからない事をぐだぐだわ〜わ〜言うが、事実は事実。)

 

通りを渡り、ビル一階の木戸でチケットを買って、いざ地下の演芸場へ。

 

この『ふたり会』は、日頃お世話になっているエステティシャンSさんが誘ってくれた。

Sさんは、日本文化をこよなく愛する凛とした女性で、お茶やお花、着物だってちゃんと着こなすし落語も詳しい。

私はといえば、一応落語好きを自称しているが、古今亭志ん朝さんなど名のある師匠のCDを聴いたり、『日本の話芸』を見たり、浅草演芸ホールに時たま行ったりするくらいの、ほとんどミーハーレベルだ。

それでも、”大道具無し、共演者無し、扇子と手拭いだけ持って座布団の上に座ったきり”で、あらゆるシチュエーションを表現する落語という芸は、まさに日本が誇る超一級の話芸であり、機会があればふらっと寄席にも行きたいと日頃思っている。 

 

頑固なご隠居、能天気な若旦那、肩肘張ったお侍、おバカな与太郎、艶っぽいおかみさん、田舎者の下男、、。

あらゆる階層・年齢の男女を、時には5〜6人いっぺんに演じ分ける。

キセルでタバコをスパスパ吸い、熱いお茶をずずっと啜り、碁石をパチンパチンと打って猪牙舟をヨイコラショッと漕ぐ-こういう所作を扇子と手拭いだけで見せるのだ。

まぁなんと見事な芸なんだろう、、。

 

この日の演目のうち、『笠碁』という噺を聴くのは初めてだった。

あらすじをWikipediaから引用すると。

 

「ある大店の隠居2人は大の囲碁好きであり、毎日のように互いの家に赴くと碁を打って楽しんでいた。

ある日のこと、今日は「待った」なしで勝負しようと一方が言い出して碁を打ち始めるが、その当人が「待った」をしようとしたために揉め始める。

次第に囲碁とは直接関係ない、過去の商売上のやり取りや、大掃除の労いで蕎麦を出さなかったなど些細な話まで持ち出し、言い争った挙句に喧嘩別れしてしまう。、、以下略 」

 

2人のご隠居は、毎日暇を持て余して碁を打つ以外、ほとんどやることがない。

お互いに、相手が唯一の碁仲間=たった一人の大事な友達であることを十分わかっているのだが、その場の勢いで喧嘩になってしまった。

 

 こっちから謝るなんてとんでもない!悪いのはあっちなんだから。

 あっちが謝りに来ないんならこっちだって。

 でも、俺のヘボ碁の相手をしてくれるのは、あいつの他に誰がいる?

 あいつがいなくなったら、俺はいったいど〜すりゃいいんだよ、、。

 

一人悶々とする似たもの同士のご隠居たちの様子が、なんとも可笑しい。

〆治師匠の抑制的な語り口が、そこに一抹の哀感を漂わせ、ちょっと言い方は大袈裟なのだが、ロシアの作家の心理劇のような趣きを感じた。

愛すべき不器用なご隠居たちの、実は深刻な心理的葛藤劇の様相を呈しているのだ(笑)。

人の心の”あわれ”と”可笑しみ”みたいなものをそこはかとなく感じて、う〜んと唸ってしまった。

 

落語のような至極の芸が、一般大衆の中から生まれ育ってきたということは、日本の伝統文化の底知れない深さだなぁと思う。

江戸弁-下町言葉と共に、ずっと大事に継承されていってほしいと心から思う。あ、上方落語の関西弁も!

米朝さんも仁鶴さんも鬼籍に入られてしまったが、関西弁独特のイントネーション・言い回しは耳に馴染んで心地よく、ある時期、上方落語ばかり集中的に聞いていた。

そのリズムと音楽性について、以前このブログで書いたと思う。

 


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コメント: 5
  • #1

    まっち (木曜日, 17 8月 2023 14:21)

    私はテレビで見ただけで寄席など行った事が無いのですが、落語は子供の頃から家族でよく見ていました。
    自分から本気で見るようになったのは、中学生ぐらいから、円生、小さん、馬生、志ん朝、談志ぐらいまで。それ以降は、知らない。志ん朝が亡くなられた以後は、何故か虚しくて全く見なくなってしまった。

    笠碁は、小さん師匠で見た事があります。4~50年前の事だったでしょうか?二人のご隠居の悶々とする表情を表す芸がサイコーでした。

    ところで、何故か参議院議員になってしまった一龍齋貞凰貞師匠の講談も大好きでした。
    西遊記や左甚五郎等のお話は、下手な落語より遥かに面白かったです。

  • #2

    michiko (木曜日, 17 8月 2023 19:00)

    志ん朝師匠が亡くなられた時、私も呆然として虚しくなりました。
    もう、あの芸を見れないんだ、、っていう絶望感ですね。

  • #3

    ぅぉ (木曜日, 17 8月 2023 22:36)

    落語と言えば、『志の輔ラジオ 落語DEデート』聴いたり、
    youtubeで、柳家喬太郎師匠の落語聴いたり位しかないなー

    あとは、アニメで『昭和元禄落語心中』や『じょしらく』見たり。

  • #4

    ぅぉ (月曜日, 21 8月 2023 10:00)

    先日、志ん朝師匠を存じ上げない旨話しましたが、
    お噺は聞いたことありませんが、お顔は知ってました。
    高級ふりかけ錦松梅のCMの方ですね。

    後、私が存じ上げてるのは、新・必殺からくり人に出演されてたり、
    新・必殺仕事人のオープニングナレーションをなされたり。

  • #5

    michiko (月曜日, 21 8月 2023 15:52)

    ぅぉさん大好きな必殺系に出てたんですか、志ん朝師匠ったら、、。
    女性にモテまくってましたからねぇ、若い頃。
    てか、その頃知らないんだけど、、ww。